生まれ変わりかも?猫にまつわる不思議な話

猫の可愛さに癒されたい人や猫の魅力を再確認したい人に向けて、猫として生まれ変わり再び巡り会うことができた家族の物語を紹介します。ハラハラドキドキな出会いから不思議な体験、猫を飼っている人ならくすっと笑えてしまう猫との日常風景まで、楽しくも切ない実体験をまとめました。

出会いは危機一髪、寒空の下

2020年11月。例年より早い寒波が訪れつつある神奈川県横浜市の小学校の校庭に、どこからともなくふたつのちいさな影が迷い込んできました。

遊具近くの茂みがカサカサと揺れるたび、「にゃぁ」と響くか細い声。その声につられて集まったカラスたちが大きなくちばしを茂みに向かって振りかざします。その様子を遠目で見ていた用務員さんが駆け寄ると、飛び去るカラスたちと入れ替わるようにその袖の中へと逃げ込む、ちいさな存在。怖がらせないようにそっと服を持ち上げて見たそこには、身を寄せ合う2匹の子猫がいました。

行くあてのない猫たち。うちでは飼えない、けど…。

昼休み、職員や子たちが付近を捜索しましたが、母猫の姿は見当たりませんでした。子どもたちの誰かが拾って飼ってくれると思い、小学校に動物を捨てていく飼い主は少なくないといいます。このまま飼い主が見つからなければ保健所へ連れて行くしかない……不安げな大人たちを見上げる子猫を前に、当時学校職員をしていた母は迷っていました。

そのころの我が家は愛犬を亡くして日が浅く、その悲しみからお墓の前で「うちで預かるのはこの子で最後」と決めたばかりだったのです。なにより、父は大の猫嫌い。

それでも、わけもわからず寒空の下に放り出されて、ただただ震えながら身を寄せ合う命を見過ごすことは、どうしてもできなかったといいます。悩んだ末、せめて1匹だけでも……と祈りを込めて父に電話をすると、思いもよらぬ言葉が返ってきました。

「似たような猫2匹ってことは、兄妹でしょ?今夜から寒くなるっていうし、離れ離れなんてかわいそうだから、2匹ともうちに連れてきな!」

こうして2匹の子猫は新しい家族として迎え入れられることになったのです。

始まった、兄妹猫との生活

猫を飼った経験こそなくとも、大の動物好き一家の初動は早いものでした。子猫たちと一緒に帰宅した母はすでに数日分の食事とトイレグッズを買い揃えており、そんな母一行を父は布団やぬいぐるみを敷き詰めた寝床を用意して出迎え。筆者もすぐに動物病院の予約を取り付けました。

偶然かはわかりませんが、ちょうどその夜から関東地方は強い寒波に見舞われ、翌日には子猫たちがいた校庭はすっかり霜で覆われてしまったそうです。

「ギリギリのタイミングだったね、助かってよかったね」と肩をなでおろす母の膝の上、いつの間にか丸くなっている子猫たちの寝顔は安心しているようにも見えました。

翌朝になり動物病院に連れて行くと、やはり2匹は兄妹で生後2~3カ月のキジトラ猫だとわかりました。

我が家ではこれまで犬、うさぎ、インコ、ハムスター、リス、熱帯魚などを飼った経験がありますが、猫の飼い主としてはまったくのルーキーです。猫がいったいどういう習性を持つのか、なにが好きでなにが嫌いなのか、わからないことばかりでした。

狭所好き、水嫌い…猫との生活は驚きの連続

猫と暮らしはじめたその日から、家族の生活は猫中心のものへとシフトしました。

まず驚いたのは、猫の身体能力の高さでした。高さ2メートル近くある猫用ゲージをガシガシと登ったかと思えば、頂上から一息にジャンプ。慌てる筆者の手をするりと抜けて見事着地する姿を目の当たりにしたときは、「犬が陸上選手なら、猫はさながら中国雑技団だな」とその柔軟性と瞬発力が高さに感心しました。

また、狭い場所を好む子猫たちとは毎日がかくれんぼでした。ある日家の中のどこを探しても兄猫が見つからず、「外に出てしまったのでは……」とパニックになりかけていた筆者をよそに、当の本人(猫?)は、直径20cmほどのファーストフード店の紙袋に詰まっていたことがあります。猫を飼っている家では、バッグや段ボールを開けたらすぐに仕舞うか口を閉めるという暗黙のルールが出来上がっているのではないでしょうか。

猫の水嫌いは有名ですが、入浴中に度々浴室に侵入してくる猫たちを不思議に思って調べてみると「猫は水自体は嫌いでも、流れる水は好き」という説明が……。たとえるならば、納豆は嫌いでもかき混ぜている最中の納豆の様子は好き、ということでしょうか。納豆嫌いの筆者には、なかなか理解しがたい性質です。

そのほかにもゴロゴロ鳴いていたと思ったら急に爪を立てられたり、音も気配もなく忍び寄ってくることから忍者説やワープ使用説が浮上したり、とにかく猫との生活は発見と驚きの連続でした。

そうして猫の生態を観察しているうちに、筆者たち家族は不思議な感覚を抱くようになったのです。

生まれ変わり?愛犬を思い起こさせる猫の行動

妹猫のほうが不思議な行動をとるようになったのは、我が家に来てから3日ほど経ったころでした。

まず気になったのは、気分次第で好きな場所で眠るオスとは違い、必ずリビングの端にある電話台の下で休むことでした。そこはちょうど、亡くなった愛犬がよくうたた寝していた場所。動物にとって居心地の良い場所なのかな……と思いつつ、足を伸ばしてゆったりと寝そべる姿は、在りし日の愛犬にとてもよく似ていました。

また、子猫ということもあり2匹ともとてもやんちゃだったのですが、妹猫は決して棚の上にだけは登ろうとしないのです。追いかけっこで興奮した兄猫が棚の上に逃げても追いかけず、ピタリとその場で静止します。棚の上に置かれている愛犬の遺影の前に腰を下ろし、じっと見上げるその眼差しにはなにか特別な想いが込められているようにも見えました。

そのほかにも、生前愛用していた犬用食器に寄り添ったり、残っていたドッグフードを眺めては鳴くなど、妹猫による愛犬を思い起こさせるしぐさは数え切れませんでした。家中の至るところに残る愛犬の思い出をなぞるようなその姿に、いつしか家族は「この子猫たちはあの子の生まれ変わりなのかもしれない」と思うようになりました。

「生まれ変わりであってほしい」という飼い主の想い

夏に亡くなった愛犬・らんはボーダーコリーのメスでした。大きな身体に反してせっかちな性格で、賢くも人懐っこいその姿はいつも家族のアイドル的存在でした。大きな病気もせず15年生き、最期は眠るように息を引き取ったあの日から、もうすぐ四カ月。

もしこの猫たちがらんの生まれ変わりだとしたら、これほどうれしいことはありません。幼いふたつの命を預かってから一週間ほど経ったある日、じゃれ合う2匹を見つめながら母とそんな話をしていました。

らんとの懐かしい思い出や、子猫たちがやって来てから始まった怒涛の日々。ぽつりぽつりと話しているうちに、子猫たちが生まれたのは今年の9月頃ではないかといっていた、動物病院の先生の言葉を思い出しました。9月といえば、らんが亡くなってから約一カ月半。もしかして……と思い当たった私が口を開く前に、ぽつりとこぼしたのは母でした。

「そっか、9月。生まれ変わったらもう一度うちの子になりなとは言ったけど……四十九日済ませてすぐに来たのね。まったく、せっかちなのは変わらないね」

その言葉の意味を理解したとき、ぶわっと鳥肌が立ちました。

この子たちは本当に、らんの生まれ変わりなのかもしれない。筆者の中で、初めて確信に似た感覚が芽生えた瞬間でした。

でも、そうなるとオスのほうは?メスがらんの生まれ変わりだったとして、オスは誰の生まれ変わりなんだろう……。

考えを巡らせた先に思い当たったのは子犬だったらんを引き取ったとき、今からもう14年以上前の話です。もともと、らんには双子の兄がいました。当時ぺットショップでは兄妹揃っていたそうですが、身体が弱かった兄のほうはその後ブリーダーに引き取られて亡くなったと聞きました。

あのときは一匹しか迎えられなかったけれど、今度は兄妹揃ってうちを選んでくれたのでしょうか。

もう一度一緒に暮らしたいと思ってもらえるほどのなにかを、筆者たち家族はらんに与えることができていたのでしょうか。

隣で座る母も同じ気持ちだったのかもしれません。涙を必死にこらえるふたりを、子猫たちの無邪気な目が見上げます。

「瞳、きれいな黄色だね。家族みんなで泣きながら、お墓に供えたお花と一緒だね。」

あの日も、空の上から見てくれていたのでしょうか。とびきりきれいな花を選んだから、そのまま目に焼き付いてしまったのでしょうか。

あのときは去りゆく彼女のためにと選んだつもりでしたが、花に救われていたのは残された家族のほうだったのかもしれません。たまらず涙をこぼしながら、ちいさな身体を撫でつづける母と筆者。大きな瞳はきらきらと光り、細められると、どちらともなく「にゃあ」という声が響きました。

亡くなった愛犬と入れ替わるようにやってきた猫たち。いくら似通っているとはいえ、生まれ変わりなんて憶測も理由付けも、筆者たち人間の願いにほかなりません。すべてはただの偶然の重なりで、死後の世界も輪廻転生も、本当は存在しないのかもしれません。

それでも、願いで救われる想いもあります。

人や街、大切なものを失ったとき、人は「忘れてはいけない」といいます。けれど、つらく悲しい記憶を抱えたまま生きていけるほど強い人は、そう多くありません。忘れなければ、明日への一歩を踏み出せない人もいます。

思い出を悲しいまま残すことも、確かにあった幸せをときとともに薄めて忘れ去ってしまうこともなくいられたのは、間違いなく猫たちのおかげでした。

つけられた名前、込められた想い

我が家に猫がやってきて二週間後、彼らの名前が決まりました。

まず、兄であるオス猫は「うに」と名付けられました。やんちゃで人懐っこい性格が親戚の家で飼っている猫・アジとよく似ていたことから、海鮮系の名前で揃えることにしました。

そして、妹であるメス猫。この子が愛犬・らんの生まれ変わりかはわからないけれどそうであったらうれしいこと、初めて出会ったその日から鈴を鳴らすように家の中を明るくしてくれたこと、ふたつの意味をとって「りん」と名付けました。「りん」は「らん」の妹という想いも込められています。

猫がくれる不思議なしあわせ

仁尾智さんの著書の中にこんな言葉があります。

猫との暮らしで得てきたおだやかさとか、やわらかさとか、あたたかさとか、おもしろさといった幸せの数々は、全部返済の義務がある「前借り」なのだ。そして、前借りした幸せを返済する唯一の方法が、「その猫を看取ること」なのだ。

(引用元:『これから猫を飼う人に伝えたい11のこと』辰巳出版)

猫に限らず、動物の最期が壮絶になることは珍しくありません。元気いっぱいで愛らしい犬や猫たちが静かに命を終えようとする姿に耐えられず、目を背けたくなってしまう人やそもそも飼うこと自体に躊躇してしまう人もいるのではないでしょうか。

筆者の家族は長年一緒に暮らしてきた愛犬を看取ったとき、それまでもらっていた幸せを返せたつもりでした。けれど、どこからともなく現れた猫たちによって、また別の幸せを与えられてしまったのです。これではいつまで経っても完済が見えてこないと、困ったように笑う家族の中心にはいつも自由気ままな猫たちの姿があります。

あの寒空の下、見つけてもらったのは子猫たちではなく、筆者たち家族のほうだったのかもしれないと、今は思います。

そんな家族の想いを知ってか知らずか、すくすくと成長した猫の兄妹・うにとりんは今日も元気に家の中を走り回っています。

猫たちに振り回される幸せな日々は、これからも続きそうです。

おわりに

家族の病気を予知したり幸運を呼び寄せたりと、猫にまつわる不思議な話は尽きません。

猫の何気ないしぐさのひとつひとつがもしかしたら重要なサインではないかと思わせたり、普段の暮らしになにか大きな意味を持たせたりしてくれる気がします。それこそが猫の持つ不思議な力の正体なのかもしれませんね。

猫の手帖
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